%e3%83%91%e3%83%bc%e3%83%88%e3%83%8a%e3%83%bc

皆さんは「交渉相手はパートナーである」という言葉を聞いてどのような印象を持つでしょうか。

なんとなく「きれいごとを言っているな」と感じるのではないでしょうか。

交渉は利害が対立する人同士が行うものですから、スポーツで例えれば対戦相手のようなものであり、チームメイトのように同じ目標を目指すパートナーになり得ないと考える方が多いと思います。

しかし、スポーツと交渉は異なります。

スポーツの試合は、「どちらが勝者か」「誰が一番か」を決めるためのものです。
したがって、そのルールは、どちらかを勝者に、どちらかを敗者と決めるために作られたものです。

他方、交渉では、きれいに勝ち負けが分かれることはほとんどありません。
そもそも、勝者と敗者を決める必要がなく、どうなったら勝ち、というルールが存在しないのです。

皆様もご存じのとおり、私たち弁護士は刑事事件の被告人の弁護人になることがあります。
刑事事件では、裁判前の重要な過程として被害者との示談交渉があります。

例えば、誰かが誰かを殴ってけがをさせた傷害事件があるとします。

もし、被告人が罪を認めているとするならば、有罪になりますので、弁護人としては、なるべく被告人の罪を軽くすることが仕事となります。

そのために、被告人の弁護人はまず、被害者との交渉で示談を取るよう努めます。
その理由は、示談を取ると被告人の刑が軽くなるからです。

殴られた者は、加害者になるべく重い刑を与えたいと思っていることがほとんどでしょう。
そして、金銭面でも、治療費はもちろん慰謝料もなるべく高く取りたいと思っているはずです。

被害者と加害者の利害は、完全に反しています。

弁護士が被害者と話し合いを持つ際に、こちらの目的を前面に押し出し「被告人には小さな子供がいます。被告人の刑を軽くしてあげてください」と頼むのはレベルが低い交渉です。

被害者にとって、被告人の家族には何の興味もありません。
これでは、多くの場合、合意を取り付けることはできません。

ここで弁護士が全力で考えるのは、交渉相手が望むものを満たす方法です。
たとえば、被告人に前科があり、ここで示談が取れないと、有罪になって刑務所に入ることが予想されるとします。

被告人に財産がない場合、このまま刑務所に入ってしまうと仕事をすることができず、損害賠償や慰謝料を払うこともままなりません。

弁護士は、そのような事実を誠実に、ありのままお伝えします。

被害者の希望は、
(1)なるべく被告人に重い刑を科してもらいたい。
(2)損害賠償金はしっかり払ってほしい。

というものです。

しかし、被告人が実刑になってしまうと、事実上、損害賠償金の支払いが困難になってしまうのです。
今であれば、示談をすれば被告人の刑が軽くなるため、父親が示談金を払ってくれると言っています。

しかし、実刑になるのであれば、父親は示談金を支払う気はありません。
そうなると、被害者は、(1)か、(2)のどちらかを選択しなければならなくなります。

刑事弁護人としては、ここで一度被害者に冷静になっていただき、被害者の人生にとって、どのような選択をするのが最も幸せになるのか、を考えていただくお手伝いをすることになります。

冷静になって考えると、被告人の刑が重かろうが軽かろうが、被害者の人生にとっては何の影響もありません。

感情の問題です。
その結果、被害者は、示談を選択し、示談金を受け取ることを決断することがあります。

ここで、刑事弁護人は、被告人の側の事情は主張しません。
被害者の側の事情に焦点を当て、被害者の利益を満たすことを目指しています。

しかし、結果的には、被告人が望む減刑という結果を勝ち取っています。

この状況は、刑事弁護人は、交渉相手である被害者の利益を満たすことを目指すパートナーとも言えないでしょうか。

「操作的だ」と言う人がいるかもしれません。
しかし、この刑事弁護人は、被害者に不利益を与えるため、騙しているわけではありません。

営業など、売買交渉でもそうでしょう。

売り手の目的はもちろん売り上げを挙げること。
そして、買い手はお金以上の便益を得たいとそれぞれ思っています。

しかし「私に売上を挙げさせてください」などと頼む売り手は最低の営業成績となるでしょう。

商品を買うことでお客様の人生が豊かになるというストーリーを語り、商品を買ったことによる幸せが、商品代金という金額より上回ることをわかってもらった時に、はじめて自分の売上が実現します。

ここに勝ち負けなど存在しないことは言うまでもありません。
売り手は売上という利益を実現し、買い手は豊かな人生を送るための一つの手段を手に入れています。

確かに、交渉相手は完全なパートナーではないでしょう。

しかし、相手のニーズを満たすことで自分のニーズが満たされるという、ある種のパートナーシップが結ばれた時にこそ、こちらの利益が最大になる良い交渉ができる場合がある、と考えます。

このような交渉に入るためには、相手のニーズを知ることが必要です。

そのためには、雑談が有効です。
ぜひ、ご活用ください。
売れてます。

「雑談の戦略」(大和書房)
https://www.amazon.co.jp/dp/447979543X/

【編集後記】

このメルマガは、10年以上出しています。
たまに読者の方から
「10年間読んでいます」
とメールをいただくことがあります。

10年間も、自分のメールを読み続けていただいている、というのは嬉しいですね。
今後も、できる限り皆さんに有益な情報をお送りしたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

今日も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
そして、また次回もぜひ読んでください!

では、あなたに健康と幸せが訪れますように祈っています。