遷延性意識障害とは
遷延性意識障害の条件
意識不明のまま長期間昏睡状態にある患者を、自発的に活動できないことから遷延性意識障害(植物状態)の患者ということがあります。医学上、次の全ての条件を満たすものが遷延性意識障害にあたるとされています。
- 自力で移動できない
- 自力で食事飲物の摂取ができない
- 尿糞が失禁状態にある
- 眼で物の動きを追ってもそれが何であるか確認できない
- 「手を握れ」「口を開けろ」などの簡単な命令には応じることはあっても、それ以上の意思の疎通は不可能
- 声は出しても意味のあることはいえない
- 以上の状態が3ヶ月以上続いている
後遺障害等級
通常、遷延性意識障害(植物状態)の患者に対しては、通常は、別表第1、1級1号の後遺障害等級認定がなされます。遷延性意識障害(植物状態)の認定作業においては、高次CT画像やMRI画像及び医師作成の後遺障害診断書、頭部外傷後の意識障害についての所見、脳外傷による精神症状等についての具体的な所見、日常生活状況報告表などの書面に基づき判断されます。
示談交渉
後遺障害等級が1級や2級の場合は、労働能力喪失率は100%とされているので、通常、逸失利益は高額になります。また、後遺症慰謝料も高額となるため、一般的に裁判基準と保険会社の提示額に大きく開きが出ることになります。そのため、交渉による示談では解決がつかず、訴訟に持ち込まれることが多く見られます。
また、遷延性意識障害(植物状態)の患者は、感染症にかかりやすく一般的に長生きをすることがないと言われています。そして、交渉過程において被害者が亡くなってしまうと、死亡以後の将来介護費を請求することができなくなってしまいます。そのため、交通事故により被害者が遷延性意識障害(植物状態)となってしまったときには、早急に成年後見申立の手続きを行うとともに、訴訟提起を前提に証拠収集を行う必要があるでしょう。
介護の具体例
遷延性意識障害(植物状態)の被害者は、そもそも意識がないため、生命活動を維持するための多くの行為を介護しなければなりません。
具体的には以下のような介護です。
- 数時間ごとの痰の吸引
- 床ずれ防止のための頻繁な体位変換
- 定期的なおむつの交換
- 食事
- 入浴
- 更衣
- その他
痰の吸引や体位交換などは、日夜問わず定期的に行わなければなりません。また、入浴や体位交換などは、一人で行うことは困難なほどの体力仕事です。そのため、遷延性意識障害(植物状態)の被害者を自宅介護している近親者は、朝まで熟睡することすらできないのが現状です。また、様々な感染症の予防にも配慮しなければなりません。
介護部分の賠償金
このようなことから、交通事故の損害賠償においても、この介護部分に関する賠償金をどのようにするか、ということが重要な問題となってきます。
しかし、日本の交通事故損害賠償においては、「控えめな賠償」理論で行われることから、実際には、不十分な賠償金しか示されないのが通常です。
しかし、裁判をせずに、保険会社から提示される介護部分の賠償金は、更に低額であることが常態ですので、必ず弁護士に相談するようにし、決して安易に示談をしないようにしてください。
成年後見制度とは
遷延性意識障害(植物状態)になってしまったときは、示談をする能力が全くない状態です。そうなると、被害者が示談や裁判の当事者となることができません。
そのため、この場合には原則として、家庭裁判所に成年後見開始の審判手続を行わなければなりません(状況によって補佐人、補助人の選任もありえます。)。その結果選任された成年後見人が、本人に代わり示談や訴訟を行うこととなるのです。
成年後見制度の区分
成年後見制度は、本人の判断能力の程度によって、次のように区分されます。
- 本人の判断能力が全くない場合 →後見
- 本人の判断能力が特に不十分な場合 →保佐
- 本人の判断能力が不十分な場合 →補助
1 後見
成年後見とは、本人が一人で日常生活をすることができない等、本人の判断能力が全くない場合になされるものであり、後見開始の審判とともに、本人(「成年被後見人」という。)を援助する人として成年後見人が選任されます。この場合には、成年後見人が本人を代理して示談や訴訟を行うことになります。
2 保佐
保佐とは、本人の判断能力が失われていないものの、特に不十分な場合になされるものであり、保佐開始の審判とともに、本人(「被保佐人」という。)を援助する人として保佐人が選任されます。
保佐開始の審判を受けた本人は、一定の重要な行為(金銭の貸借、不動産及び自動車等の売買、自宅の増改築等)を、保佐人の同意なしに、本人が単独で行うことができなくなります。交通事故の損害賠償については、保佐人に代理権が与えられる場合もありますが、本人の同意が必要です。
3 補助
補助とは、本人の判断能力が不十分な場合になされるものであり、補助開始の審判とともに、本人(「被補助人」という。)を援助する人として補助人が選任されます。
補助人は、本人が望む一定の事項について、同意、取消、代理をすることで、本人を援助していきます。交通事故の損害賠償では、補助人に代理権が付与されることがありますが、本人の同意が必要です。
どの申立をするか
遷延性意識障害(植物状態)の時は、当然に後見の申立をすることになりますが、高次脳機能障害の場合には、後見、保佐、補助のどの申立をすれば良いのかわからない場合があります。この場合には、主治医の先生の意見を参考にして、とりあえず、近そうな類型の申立をすることになります。
もちろん、裁判所に提出してから、裁判所から、類型が異なる旨の指摘を受ける場合があります。しかし、その場合には、申立をやり直す必要はありません。「申立の趣旨」の変更手続を取ればよいのです。
したがって、まずは感覚で申立をし、その後は裁判所の指示に従って変更等をしていけば良いと思います。
なお、これらの手続には、主治医の鑑定書が必要となります。事前に主治医に対して、手続についての協力を依頼しておく方がスムーズに進むでしょう。
その他
これらの手続きのために必要となった費用は、別途交通事故による損害金として請求することが認められています。
なお、自賠責保険では、問題が生じた場合には一切の責任を負うとの内容の念書を提出したうえ、成年後見人ではない者(通常は親族)が保険金を受け取れる場合があります。常に成年後見手続が必要とすると、手続に長期間を要したりして、被害者保護に欠ける結果となってしまうからです。



